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現物取引市場における倉庫証券の流通および公示制度に注意すべき法的リスクおよび関連リスク回避策
Tue Mar 17 11:55:00 CST 2015 発表者:

 

邢昊然

 

  倉庫業者による現物商品に対する有効な保管こそが近代大口商品現物取引制度構築の基盤であり、そして倉庫証券は寄託した貨物を権利者が引き取る時の証明書類および貨物の転々流通と資金調達に用いられる証券であることから、その関連制度構築の重要性は言うまでもない。しかし、我が国の現行法の関連規定の立ち遅れと欠乏により、倉庫証券の虚偽発行や、貨物と書類記載の不一致、重複質入などが現在多発しており、特に鉄鋼や、石炭などエネルギーと非鉄金属業界では、状況がかなり深刻化しており、すでに現物取引制度構築および関連業界企業発展の障害となっている。
  2014年11月17日、『中国(上海)自由貿易試験区大口商品現物市場取引管理規則(試行)』が公布された。同管理規則は、「第三者倉庫証券公示プラットフォーム」、「倉庫証券情報ランク付け公示」などの重要な原則を確立したが、倉庫証券の流通と公示のプロセス、効力および紛争解決などの具体的問題については、依然として「第三者倉庫証券公示機構は市場経営者や、指定引渡倉庫と共に具体的な公示規則を制定するとともに、提携契約を締結し、関連業務のプロセスおよび各側の権利、義務と責任を明らかにすべきである」と大まかな規定しか定めておらず、明確な処理規則が出されていない。これに対し、著者は倉庫証券の流通および登録公示行為の現物取引分野において存在しうる法的リスクを整理し、我が国の現行の法律規定および関連司法実務に合わせて、当該法的リスクの紛争処理規則に対する分析を行うとともに、これに基づいて我が国の大口商品現物取引市場構築中、如何に関連法的リスクを低減・回避するかについて提案する。

 

一.主な法的リスク

(一)倉庫証券に対応する貨物自体の瑕疵による法的リスク
1.貨物の最初からあった瑕疵による法的リスク
貨物の最初からあった瑕疵とは、貨物の入庫手続きを行う時にすでに瑕疵があり、その実際情況が倉庫業者より発行された倉庫証券と最初から一致しないことを指し、主に以下の状況が含まれる。
(1)貨物寄託者が貨物の実際所有者ではなく、その寄託行為は無権処分に当たること。
(2)倉庫業者の監督管理の粗忽又は貨物寄託者の悪意ある結託による「貨物無し倉庫証券発行」、つまり、倉庫業者は貨物を実際に受領していない状況下で、対応する倉庫証券をすでに発行していること。
(3)貨物の種類、数量、品質等級など実際の規格が倉庫証券にある記載と一致しないことに起因する「貨物と書類記載の不一致」や、粗悪品を上等な品と偽り、重量や数量をごまかすこと。


2.倉庫保管中に発生した貨物の瑕疵
(1)貨物自体の性質によって腐敗変質、自然消耗が発生したこと。
(2)貨物が人為的な原因によって破損、滅失が生じたこと。

 

(二)倉庫証券およびそれと対応する貨物上において権利競合の存在によって生じる法的リスク
  倉庫証券およびそれと対応する貨物上における競合によって生じる紛争は現実の中で最も顕著な法的リスクであり、例えば、現物取引にかかわる貨物がすでに第三者によって担保物権が設定されている場合や、貨物寄託者と倉庫業者との悪意ある結託によって一口の貨物に対し複数の倉庫証券が発券された上で、それぞれの倉庫証券で銀行に質入れして借金をしている場合、貨物寄託者が倉庫証券を他人に質入れすると同時に、貨物をその他の業者に抵当又は譲渡する場合などが含まれる。ここ数年来、長江デルタ地方で影響が非常に悪い「小型鋼鉄貿易業者のローン詐欺」現象がその中の典型的な事例である。要するに、関連法的リスクには主に以下内容が含まれる。
1.倉庫証券又はそれと対応する貨物上に同じ動産担保物権の競合が存在する。
(1)一口の貨物に複数の動産抵当権が設定されている。
(2)倉庫証券又はそれと対応する貨物上において複数の質権が設定されている。


2.倉庫証券又はそれと対応する貨物上に異種の動産担保物権競合が存在する。
(1)倉庫証券質入と貨物上に設定されている抵当に競合が発生している。
(2)関連抵当権、質権と留置権に競合が発生している。


3.動産担保物権者と現物取引の取引相手との権利競合

 

(三)倉庫証券登録公示行為によって生じる法的リスク
  大口商品現物取引市場を発展させ、参加者主体が現物取引に参加できるように、公開かつ透明な形で参加者主体に貨物の情報を直ちに把握させるために、倉庫証券の公示と流通規則の構築はそれぞれの現物取引市場における取引規則の基盤と核心となっている。しかし、権利証明の1つである倉庫証券は、『物権法』、『担保法』などの関連規定に基づき、その譲渡、質入は登録公示を要件としないため、必ず倉庫証券登録公示行為に相応な法的リスクをもたらす。その法的リスクには主に以下の内容が含まれる。
1.倉庫証券公示行為の性質が現行法の枠組みの下で如何に決められるのか。
2.複数の公示プラットフォーム間の互換性や衝突問題を如何に解決するのか。

 

二.現行法律環境下での法的処理規則
(一)貨物自体の瑕疵によって生じる紛争の処理規則
  現物取引に参加する売り手は、貨物を倉庫業者に交付するとともに、倉庫保管費用を倉庫業者に支払う。倉庫業者は貨物を保管、貯蔵する。両者の間では、倉庫保管契約の法律関係が成立し、現物取引の売り手が貨物寄託者であり、倉庫業者が保管人である。
  貨物が入庫される際に、保管人は寄託者から受けた貨物の説明に照らして、慎重な注意義務を以って、貨物に対する受入検査を行い、貨物の実状をありのままに倉庫証券に記載し、受入検査時に入庫保管物が約定と合わないことを発見した場合には、直ちに貨物寄託者に知らせなければならない。保管人による受入検査が完了し、倉庫証券が発行されたことは、つまり、倉庫証券上に記載の貨物が瑕疵なく倉庫に貯蔵されており、保管人はそれに対し保管の責任を負うということとなる。
  貨物保管期間中に、保管人が入庫貨物に変質又はその他の破損の可能性を発見した場合には、直ちに貨物寄託者又は倉庫証券所持者に知らせなければならず、貨物寄託者又はその他の倉庫証券所持者は倉庫に入って寄託貨物の情況を検査するか、サンプル抽出を求める権利もある。保管期間中に寄託貨物に破損、変質、滅失が発生した場合には、一般的に保管人による保管に不備があると推定され、保管人は貨物寄託者又は倉庫証券所持者に対して賠償の責任を負わなければならない。但し、保管人は立証することにより、その損失は寄託物自体の性質や、貨物寄託者の包装が約定と一致せず、或いは有効貯蔵期間を超過しているなど保管人の責によらない事由により生じたものであることを証明することができ、この場合には、保管人は賠償の責任を負わなくてもよい。
  しかし、貨物の瑕疵が入庫の際にすでに存在、又は保管期間中に発生、又は貨物寄託者と保管人との悪意ある結託によるものであるかを問わず、現物取引の相手としては、倉庫証券上の記載に対する信頼に基づき、直接売り手との間の売買契約関係に基づいて、売り手に対し倉庫証券に記載の貨物の引渡しを求める権利を有する。そうでなければ、現物取引の相手は売り手に対するかかる違約責任を追及することができる。また、一部の現物取引市場の取引規則によって、取引相手は保管人に連帯責任の負担を求めることもできる。貨物の瑕疵が誰の原因によるものであるか、対外に責任を引き受けた後の責任を如何に区分するかについては、貨物寄託者と保管人が自ら解決すべきで、第三者とは関係がない。

 

(二)倉庫証券およびそれと対応する貨物上における権利競合によって生じる法的リスクの処理ルール
1.同種担保物権の競合
  動産担保物権とは、債務の補償を確保するために、債務者又は第三者より提供される特定の動産上に設立される制限性物権を指し、動産上に設定される担保権益である。現行法の規定により、我が国では抵当権、質権と留置権の三種の物的担保方式があり、不動産担保の情況の下で、厳しい登録公示制度が不動産の保障と法的意味の確認となるため、一般的に効力の衝突は発生しない。ところが、動産の場合の情況が煩雑になり、通常、同一動産に一つのみの担保物権が存在することが一般的であるが、一物一権主義は同一動産に存在する2つ又は2つ以上の担保物権に対して、必ずしも絶対に排斥しないため、動産担保物権の競合が可能となる。現物取引において、発生する可能性のある権利の競合情況および一般的な処理規則は以下とおりである。
(1)動産抵当権の競合
  抵当権の成り立ちと効力発生について、『担保法』第41条には「当事者が本法律第42条に規定された財産を以って抵当する場合、抵当登録を行わなければならず、抵当契約は登録の日から効力を発生する」と規定されている。この規定に関して、下記のような通説の見解がある。抵当契約の効力、抵当権の効力発生、抵当権の対抗効力の三者が同列に論じられた当該規定によると、双方の当事者が動産抵当契約を締結した後に契約を登録していなければ、抵当契約が無効となり、債権者も抵当権を享受できず、債務者の契約締結上の過失に関連する責任しか追及することしかできなくなり、債権者利益の保護に不利であることが明らかであるから、これまでずっと批判されてきた。『物権法』の公布後、この規定が改正され、動産抵当に関しては、原則として抵当権は抵当契約が効力を発生する時点で効力を発生するが、登録していない場合は善意ある第三者に対抗してはならないことが認められた。『担保法』と『物権法』の関連規定が衝突する場合には、「新法が旧法よりも優先される」という原則に基づき、『物権法』が優先して適用されるものとする。
  そのため、貨物寄託者又は倉庫証券所持者が倉庫寄託物について前後して複数の債権者と抵当担保契約を締結した場合、抵当登録を行ったかどうかにかかわりなく、債権者の抵当権は全て効力を生じており、競合が発生している。
  こんな時の衝突処理については、通常、問題解決のために2つの基本ルールが採用されることがほとんどである。一つは「登録優先」原則で、つまり動産抵当権の実現順位は登録時間の前後で決せられ、登録済み抵当権が未登録抵当権よりも優先され、先に登録された動産抵当権は後に登録された動産抵当権よりも優先される。もう一つは、「同時間同順位」の原則で、つまり動産抵当権が同時(一般的に日を単位とする)に登録された場合、同一順位にあるものとされ、動産抵当物の売却によって得られる代金は、各動産抵当権者が債権額のに応じて比例配分を受ける。
  そこで注意しなければならないのは、競合が発生する複数の動産抵当権がいずれも登録されていない場合について、現時点での立法と理論には「設定優先」と「順序同等」の2種の異なる主張が存在している。『担保法』第54条は設立優先原則を採用し、「未登録の場合は、契約の効力発生時間の順番で弁済する」と規定しているが、『物権法』第199条は順序同等原則を採用し、抵当権が登録されていない場合には、債権額の割合に応じて弁済すると規定している。著者は、「設定優先」と「順序同等」を比較すれば、「順序同等」原則を採用した方が、取引の安全と公平に有利であると考える。なぜならば、「設定優先」原則を採用する場合、先立って弁済を受けるという不法目的を達成させるために、設定人と抵当権者のうちのある者との悪意ある結託、又は契約締結期日の無断変更が起こりうるからである。また、先に設立された抵当権は未登録の原因により公示効果がないため、前の抵当者がその動産に抵当権がすでに設定されていることを隠した場合、全く事情を知らぬ後の抵当権者が重複して抵当権を設定したら、設定優先の原則に基づき、後の抵当権者の弁償を受ける順位が必ず前の債権者より劣らなければならない。この結果は後者にとって予測不可能且つ不公平なもので、取引参加者主体がいつも貨物に未登録の先行抵当権がないかを心配する境地に陥ることになる。よって、『物権法』における「各動産抵当権者は債権額の割合に応じて弁償を受ける」という規定がより科学的である。
(2)動産質権の競合
  複数動産質権の競合問題については、担保法の司法解釈に「質権者が質入れ人の同意を得て、自分の占有する質入物を以って第三者との質権設定の目的物として質権を設定した場合、転質権の効力は原質権(元の質権)より優先される」と規定されている以外で、その他の法律に明文な規定はない。その原因として考えられるのは、恐らく、質権の成立には動産の占有転移を要件とする以上、1つのモノの上に2つ以上の占有が存在してはならず、それに2つ以上の質権も成立できなくなる、つまり、動産質権の競合の発生しようがないという見解が立法者にあったからであろう。
ところが、現実状況から見ると、このような見方はすでに担保物権発展の傾向および現実的なニーズに追いつかない状況にある。一方、現代でいう「占有転移」はもはや「自己直接占有」の限界を超えており、多くの間接的な方式によって占有の実現が可能であり、質入物が質権者の実質的支配の範囲に置かれるようにすれば良い。他方、権利の質入れの発展につれ、権利証明書類が代表する動産権利とそれと対応する実際動産との可分離性は質権の競合が可能になる原因でもあった。そして実践中は、倉庫業者が複数の倉庫証券を発行することによって生じる重複質入の状況はなおさら動産質権競合の典型的な情況である。
  現行の法律が不足しているという状況下で、学術界と司法実務において、上記動産質権の競合問題の処理規則に対し、幅広く検討が行われた。一口の貨物に複数の倉庫証券を発行したことにより生じる重複質入問題について、上海市高級人民法院は内部シンポジウムにおいて以下のような見方を打ち出した。各倉庫証券の所持者に対し自分が善意且つ過失のないこと、そしてすでに倉庫寄託物に対する実質的支配を実現したことを立証して証明するよう要求し、各倉庫証券の所持者がいずれも倉庫寄託物を実際占有していることを証明できない場合、一般的には、各質権はすべて成立せず、関連債権者はいずれも倉庫寄託物に対する優先弁済権を主張できないと認定することとなる。
  筆者は、このような処理方式では、質権効力発生の前提条件が質入物に対する「占有」であることや、倉庫証券と貨物の絶対的な対応を強調しており、各倉庫証券の所持者が実際に質入物を支配していない場合は、質入物が本当に占有転移されていないことを意味するので、質権が効力を発することはできないと考えている。その実質的な意味は、銀行などの金融機関を督促して、倉庫証券の質入融資審査の際に厳しく審査を行うことで、鉄鋼貿易などの分野で起きている融資混乱事象に対するコントロールを図る点にある。
  しかし、検討すべきなのは、権利質権が一般動産質権と区別される印はその標的物が「モノ」ではなく、「権利」であるということだ。倉庫証券を以って質入れする場合、質入れの対象は「倉庫証券の記載によって貨物を引き取る権利」である。また、倉庫証券が譲渡・流通できる証明書類となり得る主な理由は、倉庫証券所持者に「倉庫証券を所持すること自体が貨物に対するコントロール」の信用が形成できるからである。そのため、多くの学者が言うとおり、権利証明書類の所持はすでに貨物に対する占有を意味している。司法実務における貨物に対する実際占有についての強調は、ある意味一般動産の質入れを権利質入と同一視することであるが、現時点での立法の空白および現実にある上重複質入などの混乱な事象に対する規制の緊迫性に鑑みて、上海法院の当該処理方式は実際には「仕方なくやっている」という有様である。


2.異種担保物権の競合
(1)抵当権と質権との競合
  抵当権の効力発生は抵当物の占有転移を要しないことから、同一動産上に抵当権と質権が併存することが十分可能であり、特に大口商品の現物取引において、貨物主が貨物を債権者に抵当すると同時に、倉庫証券をその他の主体に質入れする場合も数多くある。抵当権と質権との競合に対し、我が国の現行の法律には単に担保法司法解釈の第79条に「同一財産の法定登録済み抵当権と質権が並存する場合、抵当権者は質権者に優先して補償をもらえる」と規定されているのみである。しかし、当該条項の規定は広範囲に及び実践中現れる可能性のある各種情況が区分されていない。加えて『物権法』の公布以来、抵当登録効力に関する規定は『担保法』に比べて大きな改正が行われている。このような状況において、担保法司法解釈中のいわゆる「法定登録済み抵当権」を如何に理解したら良いのかについて大きく議論されており、この問題に関しては依然として明らかな立法上の空白が存在している。実践の中では、抵当権と質権の競合を以下のルールで処理されることがよくある。
  抵当権が先に、質権が後に成立する場合、先に設立された抵当権が登録されると、『物権法』の188、189条の規定に基づき、当該登録抵当権は第三者対抗効力を有し、当該第三者の範囲は当然のごとく後の質権者も含まれる。しかし、質権者にとって、質権設定の際、質入物上にすでに他人の抵当権が設定されていることを承知するはずである。このような情況において、「登録優先」の原則に基づき、抵当権は質権よりも優先される。ところが、先に成り立つ抵当権が登録されていない場合、当該抵当権は効力を発生しているものの、第三者対抗効力はなく、一般動産質権にとって、質権者はこの時にすでに実際に質入物を占有することとなる。当該占有状態は公示と対抗効力を生み出すため、抵当権が先に効力を発生しても、この時の質権は依然として抵当権が優先される。
  質権が先に、抵当権が後に成り立つ場合、抵当権が登録されていないと、当然質権の後に継ぐべきであるが、抵当権が登録されている場合、担保物権の実現順位を如何に確定するかについてこれまでずっと議論されている。この時「登録優先」の原則に従うべきで、登録済み抵当権は質権よりも優先されると主張する見方もあるが、。著者はこのような見方は検討の余地があると考えている。なぜなら『物権法』が抵当の登録を第三者対抗の要件とする原因は、抵当権の設定は占有の移動を要しないからである。ところが、質権の設定は占有の転移が要件となり、その「占有転移」自体も公示・対抗の効力を有する。「登録」と「占有」の二つの公示方法自体には優劣の区分がなく、公示方法の相違は質権と抵当権自体の特徴によって決められる場合、簡単に「登録」が「占有」よりも優先されるとは言えない。一般動産質権にとって、質権者がすでに質入物を占有しているため、第三者に対し対抗効力が発した場合、第三者は質入物上に他人の質権が設定されていることを承知するはずであり、後に抵当権を登録したとしても、一般的に先に設定された質権が抵当権よりも優先される。
  ところが、特に説明しておきたいことは、前記の質権と抵当権の競合が発生した際の処理ルールはいずれも質権上に設立されるただの一般動産権に基づくものである。権利質権にとって、当事者間の実際に占有転移されるのは、貨物そのものではなく、ただの権利証明であり、すでに貨物に設定された質入れについて公示できないことがよくあり、さらに、第三者が貨物上に質権が存在することを知りえることができない。このような状況において、前記の「先に設立された未登録抵当権と後に設立された質権」および「先に設立された質権と後に設立された登録済み抵当権」との2種の競合状況の処理規則は現行法の中に参照の根拠がなく、更なる修正と補正が必要である。
(3)抵当権、質権および留置権の競合
  特殊な場合に、留置権、抵当権と質権の三者の競合が発生する可能性もある。例えば、貨物寄託者が貨物と倉庫証券をそれぞれ異なる債権者に抵当(質入)するほか、倉庫業者に倉庫保管費用を支払わなかったことによって、関連貨物が倉庫業者によって留置された場合である。このような場合、留置権は抵当権と質権を優先するという通説の見方がある。なぜならば、留置権は法定担保物権であることに対し、抵当権と質権は約定担保物権であり、法定担保物権は約定担保物権より優先されるべきであるからである。また、留置権は直接占有が絶対必要な条件となるため、占有喪失は留置権の喪失を意味し、直接占有自体が留置権に対する公示となり、法定の公示効力があるため、公示・公信の原則を満たしている。担保法の司法解釈にもこの見方を採用し、「同一財産に抵当権と留置権が並存する場合、留置権者は抵当権者を優先して弁済を受ける」と規定されている。しかし、立法の時代による限界によって、留置権と質権に競合の可能性が存在する状況は規定されていない。


3.担保物権者と現物取引相手との権利衝突
  現物取引中、貨物寄託者よりすでに他人に担保物権を設定した貨物が現物市場にて公開に取引される可能性があり、この場合、担保物権者と現物取引相手との間には衝突が発生する。これに対し、通常は以下のルールに基づき処理する。
  一般的に、先に登録された抵当権と質権は、その登録又は占有の公示対抗効力によって、現物取引相手がすでに対応する代金を支払っても、貨物に対し物権を主張することができず、契約の約定に基づいて売り手に対し債権を主張するしかない。勿論、抵当権者と質権者には、取引の所得を用いて債務の償還を繰り上げ、又は債務の引渡しをするという選択もある。しかし、抵当権が登録されていないと、すでに代金を支払い、実際に貨物を占有している善意ある第三者に対抗することができない。
  特に、当事者が設定したのが『物権法』181条に所定の動産浮動抵当であった場合は、当該抵当権が登録されているかどうかを問わず、『物権法』189条の規定によって、いずれも正常な経営活動において、すでに合理的な代金を支払い、抵当財産を取得した買受人に対抗することはできない。『物権法』にこのように規定される理由は、変動抵当が既存および将来の財産に担保を設定することであり、抵当人は抵当期間において、抵当財産を占有、使用、処分することができ、その全部又は一部の動産を以って抵当する場合には、抵当者による当該財産に対する処分がまた禁止され、抵当人の経営活動が正常に行えず、最終的には抵当権者の債務償還ができなくなるからである。特に動産変動抵当の標的物は、通常原材料や在庫の完成品であり、これらの動産は常に流通状態になっており、法律が抵当期間における抵当財産の処分を許すのであれば、変動抵当には抵当期間中の財産が不確定で、抵当財産が最終的に確定される前に抵当財産を処分するのは物上代位による差押えの制約を受けないという特徴があり、占有は推定による動産所有権公示方法でもあるため、変動抵当財産の買受人に対し、一定の保護を与えるべきである。そうでなければ、動産取引活動は極めて重くなり、財産の流動や、取引の達成に不利になり、近代商業のニーズを満たすことができなくなる。

 

(三)倉庫証券登録公示行為によって生じる法的リスク
  前記のとおり、大口商品現物取引参加者が貨物の情報を遅延無く把握しやすくなるように、そして取引のリスクを低減させ、取引の効率を向上させるために、集中的な電子化倉庫証券公示プラットフォームは大口商品現物市場の構築に非常に重要な意味を持っている。しかし、現行の法律は権利質権に対する規定が比較的立ち遅れており、未だに伝統的な質権の視点から権利質権を規制しているため、これによって立法と現実状況の間にある程度のギャップが生じている。一般的に、動産質権の「占有転移」を公示対抗手段とする処置は、権利質権分野において第三者に担保物権を公示する役割を果たせないことが多い。ところが、このような状況において、権利質権対抗効力の認定は苦境に陥ったように、依然として倉庫証券などの権利証明書類の転移に基づく占有で第三者に対抗する効力を形成することができると認定する場合は、事実上質権の存在を確かに知らない第三者にとっては不公平であるが、倉庫証券の占有移転に第三者対抗効力がなく、倉庫証券に対応する貨物を実際に支配することがなお必要であると認定する場合は、質権者に既存法律規定以外の義務をさらに上乗せしたようで、質権者の法律的予見性を喪失させることになる。
  「占有公示」方式が効力を失った状況下において、倉庫証券公示制度の導入は重要な意味を持っている。抵当登録公示と類似しており、倉庫証券抵当公示により、質権に対する当事者の約定を明確にし、質入担保契約の「逆締結(事後に必要に応じて虚偽契約を締結)」などといった状況の発生を防ぐことができ、第三者が動産上の権利制限情報を直ちに把握し、自分の商業策略の制定に参考と指導性意見を提供できるようにもなる。
  しかし、抵当登録と異なる所は、売掛金や、知的財産権など「無形動産」の質入れのほか、現行の法律では倉庫証券や、B/Lなどの有価証券の質入れについて法定の登録機関を規定しておらず、動産質権の登録業務をある国家機関又は登録プラットフォームに統括して担当させる法律や行政法規もない。これは大口商品取引市場の倉庫証券公示登録プラットフォームに2つの法的リスクをもたらす。一つ目は関連登録プラットフォームの公示効力を如何に認定するかということであり、二つ目は異なるプラットフォーム間の衝突問題を如何に解決するかということである。
  天津市は国家動産所有権登録改革の試験地域として、2013年3月に天津市金融辦、人民銀行天津支店はにより『天津市動産所有権登録公示照合方法(試行)』が公布され、2014年1月に天津市高級人民法院により『動産所有権紛争事件に関わる登録、公示問題に関する指導意見(試行)』(以下「指導意見」と略称)が公布された。『指導意見』では、動産登録が以下3種の方式に分類されている。一つ目は委託公示方式で、つまり、法定登録機関が自ら登録を行うが、登録機関に委託して動産所有権状況を公示し、登録機関より発行された照合証明書と同様な法的効力を有するため、人民法院がこれを認める。二つ目は委託登録方式で、つまり、法定登録機関は登録機関に動産所有権状況の登録と公示を委託することができるが、法定登録機関は委託行為によって生じる法律結果に対して法的責任を負うべきである。三つ目は自発的に登録する方式で、既存の法律、行政法規に規定されていない動産所有権の法定登録機関である場合、当事者は自らの意志で登録機関にて登録を行える。当該規定により、倉庫証券やB/Lの質入れなどの非法定登録の質入れは、自発的登録対象に含まれ、登録プラットフォームにおいて登録済みの場合、必ずしも第三者に対抗する法定効力を有するとは言えないが、訴訟においては証拠効力があり、「質権者は質権を享有すること」、「関連主体は質権者が先に設定した質権の存在を知っているはずであること」について証明の効果がある。筆者は天津市の関連規定を参考にする意味があると考えている。

 

三.リスク回避の提案
  現在の関連法律規定に不備があり、現物取引分野において紛争が多発しているため、前記法的リスクの発生を最大限回避するために、筆者は大口商品現物取引市場の構築の際、下記の幾つかの面からのリスク回避策を提案する。
(一)取引参加者主体の資格、範囲を制限
  先ず、現物取引参加者にとって、一部の業者又は個人が現物取引の名義で契約詐欺又は出資を防ぐとともに、参加者に比較的強いリスクコントロールと対応能力を持たせるために、自由貿易区大口現物取引に参加する買い手と売り手に対して、取引される商品についての業務経験を有すること、比較的強い資金的実力を擁することを要求すべきであり、かつ、原則として公民個人が大口商品取引に参加することを認めない。
  次に、倉庫業者に対して、厳しい資格制限条件を設定し、資金的実力が比較的強く、標準化管理を行っている、倉庫保管、検査、監督管理能力が十分ある自由貿易区通関申告倉庫のみを取引市場のサービス倉庫業者として選択するとともに、倉庫業者自身による現物取引の参加を厳しく禁止し、原則として倉庫業者が現物取引参加者に形を変えた融資サービスの提供を禁止する。
  そして、結託して市場をコントロールし、取引側と倉庫業者との悪意ある結託など情況の発生を防ぐために、各取引参加者主体に対し関連関係の申告を要求する。

 

(二)倉庫業者の責任を強化
  ここ数年来、よく見られる鉄鋼貿易ローン詐欺事件の多くが倉庫業者の法律・法規違反行為に関わることに鑑みて、自由貿易区における大口商品現物取引市場の健全化を図るため、倉庫業者の責任を強化する必要がある。例えば、取引所と倉庫業者が提携契約を締結して、次のことを約定する。倉庫業者は倉庫証券の発行、印鑑使用制度を完備させ、「書類と貨物の一致」を徹底実施し、内部の従業員が規定違反して倉庫証券を無断で発行することを防ぐものとする。貨物の出入庫について、倉庫業者は貨物の受領書類、貨物の受入検査書類、権利制限がないの場合の承諾を提供しなければならない。倉庫証券の質入融資手続きを行う時に、『取消不可の質入権行使協力保証書』を提出しなければならない。自らの意志によって倉庫証券や貨物の瑕疵により権利者がその権利を行使できなかった場合の連帯責任を負うとともに、一定の比例のリスク引当金を日常的リスクに対応するために引き出すことを承諾する。

 

(三)倉庫証券制度および関連取引管理制度を補完
  現物取引参加者主体と締結される「市場参入協議書」において、次のことを視野に入れてもよい。取引参加者側は自らの意志によって取引所より指定された倉庫証券登録公示プラットフォームの公示効力を認可することを明確にすること、各倉庫保管プラットフォームの倉庫証券の標準様式は必ず2014年7月1日に効力を発生した倉庫証券の最新国家標準に適合することを要求し、倉庫証券の発行プロセス、記載事項などの問題がある程度統一され、倉庫証券の記載を詳細化することにで、倉庫証券と貨物との直接的対応を最大限保証して、倉庫証券所持者の倉庫寄託貨物に対する「実際占有とコントロール」を保護する。そして、上海先物取引所の倉庫証券方式を参考して、電子倉庫証券を主な形式として、倉庫証券の関連操作に対して必ず倉庫証券電子管理システムを通じて行うようにする。これにより、倉庫業者の規定違反による倉庫証券の発行と使用のリスクが効果的に低減される。
  なお、予約金、保証金などの契約履行担保制度を導入するほかにも、一定の条件を満たす取引双方が取引のために保険に加入することを要求し、独立の監査業者より定期的に倉庫管理情況を検査するなどの手段を導入して、さらに取引の安全を保護し、取引のリスクを低減する。

 

(四)倉庫証券登録公示プラットフォーム構築の補完
  現物取引制度の中の重要な基礎システムとしての倉庫証券登録公示プラットフォームの構築情況は、取引の効率と安全性に直接的に影響している。現物取引参加者およびその他の社会主体が倉庫証券およびそれに対応する貨物の実際情況を把握する利便性の向上を図り、動産の所有状況を明らかにし、登録公示の公信力と影響力を向上させるために、倉庫証券公示プラットフォームの問い合わせ受理条件を下げるべきであり、あらゆる団体と個人が公示プラットフォームにおいて無料で倉庫証券の基礎情報を照合できるようにするが、その中の関連団体の商業秘密に関わる具体的な情報に対しては一定の秘密保守手段を取ることができるだろう。
  ところが、異なる登録公示プラットフォーム間の衝突や、相互の登録公示における公信力の希薄化を解決するため、各主要な登録プラットフォーム(中国人民銀行信用情報センターなど)との提携を行い、プラットフォーム間のデータ共有とドッキングを実現させることを視野に入れてもよいだろう。
  また、倉庫証券登録公示プラットフォームの非公式登録機構の性質に鑑みて、自身のリスク低減のために、「使用にあたっての注意事項」や「問い合わせに関する説明」などの形式で下記のことを明確にするのが良いだろう。『物権法』などの関連法律の規定に基づき、当該倉庫証券登録公示プラットフォームでの公示内容は直接的な第三者対抗効力を有しない。但し、登録公示プラットフォームは紛争発生の当事者に関連書類を発行・提供することで訴訟内の証拠としての使用に協力することは可能である。なお、関連公示情報は参考のみとし、各問い合わせ主体は具体的な情況を倉庫業者に確かめることができる。登録公示プラットフォームの過失による登録内容の間違い、且つ合理的な注意義務を尽くした問い合わせ主体に対して実際な損害をもたらした場合を除いて、登録公示プラットフォームは登録内容に対して責任を負わない。


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